小島一文のG1フィッシング。島根、鳥取両県を中心に活躍中。釣(つり)情報を掲載。

成長著しいい若手釣師二人に圧倒

-隠岐海士町無名磯のグレ釣り-
イチローの活躍
 21世紀最初の年も、もう後わずかとなった。
新しい時代の幕開けに心ときめかせてスタートしたはずの2001年ではあったが、アメリカの同時多発テロ事件を筆頭に世の中は暗いニュースが多かった。日本では国民の絶対的人気を誇る小泉内閣がスタートしたものの、これも混沌とする社会情勢と景気低迷のどん底をはいつくばった。
唯一私が印象に残ったよいニュースといえば、大リーグ:シアトルマリナーズ:イチロー選手の活躍だろうか。学生時代に少し野球経験がある私だが、まさか大リーグで首位打者、MVPその他、たくさんのタイトルを獲得するまでの活躍は想像していなかった。毎日のように彼の活躍を伝えるテレビニュースに、私たちは勇気づけられた。イチロー選手の活躍を紹介する特集番組から、野球の技術的なことはさることながら、イチロー選手の価値観や取り組む姿勢に感動した。彼は言った「人と比べて1番、2番はどうでもいいこと、自分がベストを尽くせたかどうか、またベストを尽くすための準備が出来ていたかどうかが大事なんだ」と・・・。
私はこの言葉を自分の釣りにあてはめてみてハッと思った。釣りトーナメントなどで相手選手に勝つことを意識しすぎて、自分のベストが尽くせてなかったことを・・・。また、少しトーナメントになれてきたからといって、自分がベストを尽くすための十分な準備が出来ていなかったことを反省した。そして本来楽しいはずの釣が、ついつい勝負にこだわりすぎて義務的になってはいないか。ここは一度原点に戻るときだと自分に言い聞かせて2001年を締めくくりたい。この号が発売されるころには2002年がスタートしているのだが、さて新年はどんな年になるのだろうか。そしてどんな夢、どんな釣果が得られるのだろうか。イチロー選手の大リーグ挑戦とはかなりレベルの違う話かもしれないが、自分の中にあるG1(グレード・ワン)を極めていきたい。

半年ぶりの隠岐釣行
 12月1日、2日、1泊2日の予定で久しぶりに隠岐島前へ釣行した。まさに半年ぶりの隠岐釣行である。今回は渡礁範囲が広く対応できる海士町のふたまた丸(08514-2-0437)を予約した。
 渡船場は修羅場だ。釣人たちは小走りに荷物を積み込んでいく。私たちが予約しておいたふたまた丸は大船長、若船長と2隻が迎えに来た。私たちは大船長が操縦するやや大型の船に積み込み完了。中之島(海士町)と西の島の水道を北進した。外海はかなりうねりが残っていて西回りの磯は無理。青物狙いの釣人を二股島に降ろし松島方面へ。風裏を探して次々に釣人を降ろし、知々井岬に二人の釣人を降ろしたところで私たちが最後に残った。
 今回私のグループは3人。グレ狙いで、磯泊まりはせずに民宿に泊まる予定だ。最後に残った私たちに大船長は「どこにしますか」と訪ねてきた。ここまでに渡礁出来る磯はたくさんあったが、私たちはあえて沖磯を避けた。事前の情報では沖磯はワカナ(ハマチの子)が多く、グレの釣果が少ないと聞いていたからだ。私のイメージとしては風裏を想定して、高田鼻、宇津屋鼻周辺の地磯を狙っていたのだが、ほかの渡船が先回りしたようなので、知々井岬周辺の無名磯に渡礁することにした。

成長著しい若手釣り師二人と
 今回私と同行してくれたのは、私が所属するG1トーナメントクラブの仲間で最近成長著しい宮廻裕くん(出雲市)と長岡進くん(出雲市)の二人。宮廻くんは30代前半、長岡くんは20代とまだまだ若いが、本格的に取り組んでいるグレ・チヌのトーナメントですばらしい成果を上げている。
宮廻くんは平成12年のマルキューカップグレで全国デビューを果たした。平成13年のG杯予選では、チヌ・グレともに地区予選を勝ち上がり、わがクラブでも一番波に乗っていて安定した成績を残している。そして長岡くんは今年クラブに入ってきたばかりだが、初出場したG杯チヌ地区予選(広島会場)でいきなり3回戦を勝ち上がり、続く中国決勝大会でも見事3回戦を勝ち抜いて、初挑戦でなんと
G杯全国キップを手に入れたシンデレラボーイだ。平成14年5月に開催されるG杯チヌ全国大会での活躍が期待される。

無名磯に命名
 さて渡礁した無名磯は知々井岬から南方向湾内にかなり入り込んだところ。
だれもが「1級磯が連なる隠岐まで来て何でわざわざこんなところに・・・」と思っても仕方がないような磯だ。同行の二人もきっとそう思ったに違いないが、私には確信があった。過去にこのポイントで実績を残した経験があるからだ。グレの釣果は少ないが、50センチオーバーのチヌ、ヒラマサ、そして得体の知れない大型魚のバラシも経験している。水深も正面に見える金床島方向には7ヒロ~8ヒロと深く、湾内の磯にしては非常に潮通しがいい。
 一度チャンスがあれば、寒の時期のグレ狙いで渡礁してみたいと思っていたポイントの一つだ。
大きい岩がボコッと突き出していて船付けも抜群によく、北西、北東の大シケでもまず渡礁可能だ。
船長に聞いても磯に名前がないというので、松島のホトケによく似た岩に見えることから、私たちは「小ボトケ」と名付けて呼ぶことにした。

二人に挟まれて釣り開始
 さて釣開始である。隠岐釣行初めてという長岡くんに船付けの突端を譲って私は知々井岬側の少し奥まったところから竿を出すことにした。宮廻くんはさらに知々井側に足場を設定。ちょうど私が真ん中で二人に挟まれる形になったが、二人の成長ぶりを間近で見れるチャンスだ。同じクラブだからといっても、職場などがまちまちだったりすると一緒に竿を出す機会は意外と少ない。
 私のタックルは図のとおりである。両サイドの二人はハリス1.7号でスタートするというが、私はあえて2.5号をセットした。撒き餌は半日の量として、オキアミ生6㎏、配合エサにマルキューの寒グレ遠投、イワシパワーグレ遠投各1袋ずつを混ぜ合わせた。寒グレは広い層の棚に効かせるイメージ。イワシパワーはグレの活性を上げるイメージ。どちらも遠投タイプに改良されていて風の強い日など単品でも使いやすくなった。付けエサにはマルキューのスーパー生、スーパーハードを用意した。

遠投に切りかえてグレがヒット
 足元に撒き餌を入れながら仕掛け投入。私は3ヒロのハリスにガン玉なし、ウキ止めなしのスルスルにして探るようなイメージで流す。撒き餌の中にはスズメダイなどの小魚が見えるが、付けエサは設定した棚に届けられる。磯の様子から最近全く釣人が入った形跡がないようだ。それだけに撒き餌が効き出すのに時間がかかる。狙いのグレのアタリが全くないまま1時間ほどが経過した。潮の流れは緩く、金床島方向正面から突っ込んできて足元から出るサラシとぶつかり合って潮目を作る。風の影響で流される仕掛けをうまく操作しながらこの潮目に付け餌をなじますが、本命のグレが食ってこない。そこで私たちは次の展開として、足元のみに集中していた撒き餌を少し遠投して、ウキの頭付近にかぶせるように撒いて仕掛けをなじませた。
すると小気味よいアタリが竿先に伝わってきた。グレだ。サイズはさほど大きくはないが待望のグレのアタリにホッと一安心。特に先端部分の長岡くんは2ヒロほどの仕掛けをスルスルで徐々になじませて25センチから30センチのグレを連発した。
 今度は左隣に入っていた宮廻くんが竿を曲げる。遠投に切り替えたのが功を奏して連続で竿を曲げた。グレのほかにチヌの30センチオーバー、石鯛の40センチオーバーが竿を絞り込んだ。
どうやら知々井岬側20mほど沖に底瀬があるようで、宮廻くんはその辺りを集中的に攻める。
ウキ下は3ヒロからこれも徐々にスルスルで探るイメージ。一方私は二人に圧倒されながらも30センチほどのグレを何匹かキープした。グレのアタリが出だして3人とも欲がでてきた。「型が少し小さいなー」と私が言うと二人同時にうなずいた。そう、ここは離島、隠岐である。いくら湾内の無名磯といえどもグレの魚影があるからには40センチオーバーが必ずいるはずだ。サイズアップを狙って気合いが入る。すると長岡くんが体をくねらせた。今までとは明らかに違う強烈なアタリを竿を寝かせながら耐えている。玉アミですくい上げたのはジャスト40センチ。足場もよく水深がある磯なので比較的取り込みやすいが、いとも簡単に取り込んで見せた長岡くんの竿さばきはなかなかのもの。合格点を出してもよいだろう。

悔しい・・・バラシの連続
 さて、二人の釣りに圧倒されっぱなしの私にも大きなアタリが来た。竿でためて魚の大きさを確認しながら、足場のよい宮廻くんのところまで移動し。徐々に寄せに入るがその時竿先がはじかれた。痛恨のハリはずれである。気を取り直してしばらくするとまた大きなアタリ。これは必ず捕ってやると慎重にやるが、なんとこれもハリはずれ。今シーズンの不調を象徴するような連続のバラシだ。今度はウキが水面を切って、もう少しで魚体を確認できるところまで寄せていただけに悔しさも大きい。重量感から50センチ近い獲物に間違いなかった。そして3度目の正直。連続ヒットの正体はイシダイだった。シマが少し消えかけた45センチの良型だった。引きも去ることんながら外道といえども高級魚。丁寧にシメてコモクールに納めた。最初の2回のバラシがイシダイだという確証はないが、宮廻くんも良型のイシダイをしとめていることから、かなり魚影は濃いようだ。こんなところからも隠岐のすごさを証明できる。
 この後もポツリ、ポツリと30センチまでのグレを追加したが、期待膨らませていた夕マズメは急に
魚の活性が落ちて底付近までウキ下を落とし込んでも付け餌はそのままだった。唯一私に大きなアタリがあったが、なんと本日3度目のハリはずれでこの貴重なアタリをものにすることが出来なかった。せっかく太いハリスで大型狙いに出ていただけに、このバラシの連続は悔しい。二人の同行者にも申し訳ない。
 
 初日が終わって渡船基地に帰る。私たちは翌日の餌の準備と仕掛けの準備をしてから民宿に入った。すでにほかの釣人たちは夕食のごちそうに舌鼓を打っている。今日の釣果の話で盛り上がっているようだ。他のグループに釣果を尋ねてみるとやはり沖磯はワカナの入れ食いで活気づいた。特に二股島周辺はヒラマサの回遊もあり、見事に70センチ級を仕留めた釣人もあったが、一瞬のうちにバラされるような大きなアタリもあったようだ。

二人の成長の早さに驚き
 2日目は天気の回復を見込んで西回りの磯をリクエストしたが、西の島冠島まで出てみるとまだまだ大きなうねりが打ち寄せる。午前6時まだ辺りは真っ暗だが、大船長は巧みな舵さばきで冠島と済の鼻の中間辺りにある無名磯に私たち3人を降ろした。
 早々に支度をして釣り開始。大きなうねりで出来たサラシが30メートル沖まで伸び、風もまだ強く非常に釣り辛い。完全に夜が明けて撒き餌が効き出すとワカナの入れ食いだ。サイズは40センチ。それでもやっぱり狙いはグレだ。ここならかなりの良型も期待できるはず。上層はワカナが多いので下層に付け餌を届けなければならない。
ハリス3ヒロの中にガン玉Bを4個段打ちにし、強いサラシの中に仕掛けをなじませた。
撒き餌は足元の磯の上に撒き、波の上げ下げで吸い込ませる。仕掛けは磯際のサラシが息を付いたタイミングを見極めて投入する。ウキ下は遊動で5ヒロから6ヒロと深めに設定。仕掛けを張りながらサラシとサラシのぶつかり合いを探して流し込む。ほかの二人は軽い仕掛けで次々とワカナを取り込むが、私はじっと辛抱して深い棚に付け餌を届けるイメージで釣り続けた。するとワカナとは完全に違うアタリが竿に伝わる。待望の35センチのグレが真っ白なサラシの中から顔を突き出した。
 「ヨシこれからだ」。すぐに宮廻くんもガン玉を追加して私をまねる。するとワカナを交わして立て続けに良型グレを2尾抜き出した。すぐに順応するあたりは、さすがにセンスの良さを思わせる。
そして彼の真骨頂はこの後訪れる。
 ようやくグレのヒットパターンをつかんでこれからだと思ったが、午前8時、渡礁したときよりも波が
高くなってきたので、携帯電話で船長に連絡をとって磯代わりした。
 渡礁したのは昨日と同じ「小ボトケ」。この日の潮流は、昨日とは全く逆で知々井岬から湾内方向に流れる潮。宮廻くんは、昨日長岡くんが入ったポイントでグレを連発し私たちを圧倒して見せた。潮下に入った有利さはあるが、風と上滑りする上層の流れを的確に読んで撒き餌と仕掛けを投入。見事に付け餌と撒き餌を同調させた。彼の釣りで感心したのは、まず撒き餌の投入イメージ。風が強いときにはなかなかうまく仕掛けと同調させにくいが、縦に分散するように多めに投入して同調誤差をうまくカバーした。次に仕掛けの張りイメージ。これは自分の道具をうまく使いこなすことが重要だが、道糸をゆるめてスルスル仕掛けを落とし込んだり、強い張りをかけてウキごと沈めたりと広い棚を探って毎回確実にグレのアタリをキャッチした。

 今回、隠岐の釣果としては数、型共にやや物足りなさもあったが、久しぶりにクラブのメンバーたちと様々な釣りイメージが楽しめた。そして何よりも、この若い二人の早い成長ぶりに、ただただ驚くばかりだ。